【医療関連感染】の防止に留意し、あるいは異常発生の際にはその原因の速やかな特定、制圧、終息を図ることは医療の安全対策上、および、患者サービスの質を保つ上に、重要なものと考えられる。そのためには、各医療機関がその規模、内容に応じて対応策を講ずることが肝要と考える。
本稿は、その基準となる指針を示すことで、本指針が当院に適した形で応用され活用され、当院の実情にあった手順書・マニュアルの策定につながり、現場で適切な【医療関連感染】に対する制御体制が確保・充実されることを目的としている。
今回、平成27年1月5日に厚生労働省から「院内感染対策のための指針案の送付について(別添)小林寬伊、大久保憲、森屋恭爾、賀来満夫、他:Ⅳ 中小病院・診療所を対象としたガイドライン及びマニュアルとアウトブレイク早期特定策の改訂」が発出され、従来の指針の改正が行われたことから、すでに提示した当院の院内感染対策指針(平成22年10月1日版)に関して、院内感染対策中央会議の提言(平成23年2月8日付)および厚生労働省から発出された各種通知などに準拠できるように見直し以下に示す。
当院が本指針等に則って当院及びその現場でのおのおのの状況に応じた日常の感染制御業務手順(当院全体及び特定部局の手順)を、簡明かつ具体的に指針・手順書・マニュアルとして作成し、その遵守を全職員に周知徹底する。指針の作成に当っては、実践の可能性、科学的合理性、現実的有効性、経済効果などを考慮する。
【医療関連感染】の発生を未然に防止することと、ひとたび発生した感染症が拡大しないように可及的速やかに制圧、終息を図ることが大切である。そのためには院長が積極的に感染制御に関わり、「感染制御委員会(院内感染対策委員会と同義)(以下、ICCという。)」、「感染制御チーム(以下、ICTという。)」などが中心となって、総ての職員に対して組織的な対応と教育・啓発活動をしなければならない。
ICCは院長の諮問委員会であり、検討した諮問事項は院長に答申され、業務運営会議・ICC・ICT、あるいは医療安全管理委員会・SMTでの検討を経て、日常業務化される。
ICTは院長の直接的管理下にある日常業務実践チームであり、院長より一定の権限を委譲され、同時に義務をも課せられて、組織横断的に活動する必要がある。具体的業務内容は、当院に適した形で手順書(マニュアル)に明記する。
発生した医療関連感染症が、正常範囲の発生か、アウトブレイクあるいは異常発生かの判断がつきにくいときは、「厚生労働省地域支援ネットワーク担当事務局」、あるいは「日本環境感染学会事務局」の担当者に相談する。
医療従事者に対する研修(職員教育)には、①就職時の初期研修、②就職後定期的におこなう継続研修、③ラウンド等による個別指導の3つがある。更に、学会、研究会、講習会など、院外でおこなわれる定期的、あるいは、臨時の院外研修がある。
日常的に当院における感染症の発生状況を把握するシステムとして、対象限定サーベイランスを必要に応じて実施し、その結果が感染制御策に生かされていることが望ましい。
アウトブレイクあるいは異常発生は、迅速に特定し、対応する必要がある。また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、Clostridium difficile、多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(MDRAb)など、アウトブレイクの危険性のある微生物の検出状況には常に監視を怠らない注意が必要である。更にまた、アウトブレイクあるいは異常発生が起こった場合には、感染経路や原因を速やかに究明して、効果的な再発防止策を採用、実行する。
手指衛生は、感染制御策の基本である。然し、実践の場での遵守率が決して高くないのが最大の課題である。
最も有効な微生物汚染経路遮断策として、米国疾病予防管理センター(CDC)の標準予防策、及び、9.付加的対策で詳述する感染経路別予防策を実施する必要がある。
患者環境は、常に清潔に維持することが大切である。
従来の基本的な感染経路別予防策に加えて、「防御環境」という概念が加わり、易感染患者を病原微生物から保護することにも重点が向けられるようになってきた。
消毒薬は、一定の抗菌スペクトルを有するものであり、適用対象と対象微生物とを考慮した適正使用が肝要である。
抗菌薬は不適正に用いると、耐性株を生み出す、あるいは、耐性株を選択残存させる危険性がある。対象微生物を考慮した、可能な限り短い投与期間が望まれる。
疾患及び病態等に応じて感染経路別予防策(空気予防策、飛沫予防策、接触予防策)を追加して実施する必要がある。以下の感染経路を考慮した感染制御策を採用する必要がある。
マニュアルに記載された各制御策は、全職員の協力の下に、遵守率を高めなければならない。これが、大きな課題である。
専門家を擁するしかるべき組織に相談し、支援を求める。
予防接種が可能な感染性疾患に対しては、接種率を高めることが最大の制御策である。
医療従事者の【医療関連感染】制御も重要な課題であり、十分な配慮が必要である。
医療関連感染】制御策の質の評価は、第三者評価(外部評価)されることが望ましい。
患者本人及び患者家族に対して、適切なインフォームドコンセントをおこなう。
本指針に関して、当院ホームページに内容を開示する。
2016年(平成28年)4月1日
感染制御委員会(院内感染対策委員会)(ICC)、ICT